中国の特殊鍼法「鍼刀(刃鍼,小鍼刀)治療」の紹介。安心安全重視で「導入可否の助言」

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鍼刀治療(小針刀・刃鍼) 鍼先がマイナスドライバー型の特殊鍼法の紹介

鍼灸院の説明

当ページでは中国の特殊鍼法、「鍼刀治療(小針刀・刃鍼)」について紹介しています。

鍼刀(小針刀・刃鍼)は、鍼先がマイナスドライバーと同じような形をした特殊な鍼で、1970年代に中国で考案された比較的新しい鍼治療法です。

鍼の先が鋭利な刃状になっていますので、普通の鍼とは違って治療ポイント下の組織(*A) に微細な切り刻みを入れることができ、石灰化などで硬化した筋肉の柔軟性回復、あるいは腱鞘や筋肉など、軟部組織間の癒着を剥がす治療に使われます。英語圏ではニードルナイフと紹介されています。
*A: 主に石灰化した筋肉,腱と腱鞘などの軟部組織が治療対象)

小鍼刀・鍼刀

上から2段目が鍼刀(小針刀)

上段より、シャープペンシルの芯の直径0.5mm 鍼刀の太さ0.8mm 刃先面は更に少し広い感じがします、写真のもの以外に更に長いタイプ、太い物があります。ほとんど「針がね」です。下段は0.20mmの一般的なしんきゅう鍼。

 

 

鍼刀の歴史

次は鍼刀の歴史、発展について紹介していきます。

日本では歴史を部分追及的に見てそれがあたかも唯一の正論であるかのように解釈する歴史観がよくみられます(最近は変化の兆し有り)が、こちらではできるだけマクロ視点に立った歴史観で説明を行うことにします。

鍼刀治療(小鍼刀・鍼刀)の歴史は、中国の朱漢章先生が1970年代に考案し発表してから始まりました。その後中国では、2004年から中国の大学用教材として採用が正式に認められるようになりました。

冒頭では、「鍼刀治療は比較的に新しい鍼治療法」とお伝えしましたが、実は今から2000年程前の古代中国には「鍼先が刃状になった鍼」がすでに存在していました。

その記録は、中国最古の医学書「黄帝内経・霊枢」の「九鍼」という9種類の鍼の説明箇所で見られます。その9種類の鍼の内で「切る鍼」は計3種類あり、当時は皮膚を切って排膿や出血させる治療に使用されていました。

「九鍼」には、「切る鍼」の他に、「刺入する鍼」と「刺入しない鍼」のタイプがあり、その内いくつかは、現代使われている鍼と非常に近い形状、同じ目的で使用されていたりで、現代の鍼の多くは、古代九鍼から発展してきたことと理解されています。(*B

また、「九鍼」は日本の教科書でも「古代九鍼」として紹介されており、国家試験にも出題されています。

*B: 九鍼(古代九鍼)/教科書,専門書

鍼の種類

はりきゅう理論 P.7
(日本の教科書)

鍼の種類

刺法灸法学 P.5
(中国の教科書)

鍼の種類

鍼灸学原論 P.145
(木下春都 著)

*B: 九鍼/ 参考資料
【 中国医学はいかにしてつくられたか/山田慶児 岩波新書 】

この書籍では、2000年以上前の中国、前漢王朝(紀元前159年前後 - 紀元前113年)の皇族「劉勝(りゅうしょう)の墓」から九鍼の一部が出土したことが紹介されています。

【P.10:引用】・・・・・中国の出土遺物のきわだった一例として、河北省の中山王劉勝の墓から発見された一連の医療器具がある。金銀製の医鍼九本と銀製灌薬器・・・医鍼のうち、破損していなかった金鍼四本(図1)は、『黄帝内経』に記載されている九種類の鍼のなかの三種類と、その形が一致している。

【P.11:引用】図1 劉勝(りゅうしょう)出土の金針
古代鍼の説明

 

中国での鍼刀治療の普及レベル、普通の鍼との比較考察

では次は、「鍼刀治療が鍼刀発祥の地の中国でどの程度ポピュラーなのか?」についてお伝えしていきます。

鍼刀治療は、中国の教科書に正式に記載されている鍼治療法の一種ですが、「かなり特殊な」治療法となります。そのため、中国でも国中のすべての病院で鍼刀治療が取り入れられているわけではありません。ネット検索を含め、私が知る限り「鍼刀治療」を取り入れている病院は、都市部など、特定地域全体の極一部に留まります。

そして私は、鍼刀治療を行っている病院で鍼刀研修を約6ケ月間受けてきたわけですが、そこで受けた「鍼刀治療の普及レベルの印象」でも、「鍼刀の治療回数(受診患者数)」は「普通の鍼治療(受診患者数)」よりも明らかに圧倒的に少ないです。

私が研修を受けた病院では、鍼灸外来の診察室が約5室ほど(*C)ありましたが、そのうちで「鍼刀」を受け付けている診察室は1室(担当医1名)のみで、週2回の午前中だけの対応でした。(*C:受付にある鍼灸外来案内表では5診だけになっていますが実際はもう少し多かったです)

説明

*C研修先中日友好病院外来一覧
赤丸は受付時間(クリックで拡大)

鍼刀治療は、普通の鍼治療よりも手間がかかり、治療1回の治療時間が長くかかりますので、午前中のみで患者数は2~3名に留まります(それ以下の少ない日もあった)。それに対して普通の鍼治療は、午前診の外来診察室1室(担当医1名)あたりの治療患者数が10~20名となり、毎日、平日1日当たりの患者数(治療回数)は少なくとも5~60名、人気医師の分と午後診分も含め、多い目の想定ならそれ以上80名程度にはなると推定でき、午後診分を含めて少ない値で見積もったとしても一週間当たりの普通鍼の患者数は230名にはなり、鍼刀は、一日の患者数を最大値の6名程度で設定計算した場合で、鍼刀治療の患者数は、鍼治療全体の2%程度となります。

これらの計算が概算なので「根拠がない主張」のように捉えられるかも知れませんが、私は北京留学中、留学先学校から派遣される研修先病院以外でも、独自交渉にて複数件の病院で研修を受けており、下見を含めれば北京市内の主要病院の中医科の受診科内容をかなり広範囲に研究、把握していました。しかも、鍼刀を取り入れている病院は、大都市でも少数であり、地方都市なら更に少ない可能性が考えられますので、中国全土の状況を踏まえると、この割合は更に低くなると考えられます。

ただし、この説明は鍼刀治療の普及レベルを客観的に評価し紹介するものであり、鍼刀の存在意義そのものを否定する目的の情報提供ではありません。鍼刀は「かなり特殊な鍼治療法」でありますので、そもそもが普通の鍼と比べ「需要自体が多くない」ということであります。それからこの説明と評価は、私が研修を受けていた2006~2008年当時の状況を元にしています。

結局のところこの計算は、中国全国の統計でもなくかなり大雑把な計算であり絶対的なものではありませんので、あくまで参考程度とご理解いただけたらと思います。しかしながら、ここで提示した「治療回数の概算推定」は、科学的な思考による推定法(※フェルミ推定)として知られています。

 

中国留学中の「鍼刀治療」研修内容について

先述のとおり、私は、鍼灸の勉強のために中国北京に留学して、大学派遣の鍼灸外来で研修を受けてきたのですが、偶然にもそこでで私の研修を担当してくださった教官が普通の鍼治療だけでなく、「鍼刀」という特殊な鍼治療を行っていて「鍼刀治療」の研修を受けることができました。この項では、その際に見た「実際の鍼刀治療の内容」をお伝えしていきます。

鍼灸研修の概要について
北京の大学での臨床研修では、派遣先の病院で学生たちが2~3人ずつの組に分かれてそれぞれの教官の元で研修を行います。外来患者の受付は、割合としては午前診療(*D)が多く、午前診のみで見た場合の「鍼医師一人当たりの患者数」は、10人ほどが平均的で、多い先生では最大20人ほどです(私のような外国人留学生も現地学生とほぼ同等に助手として働きます)。

私の研修教官の場合では、週の内3日、月・水・金(午前診)に一般の鍼灸治療を行なっていて、「鍼刀」は、火・木曜日の午前のみ行っていました。午後は指導や講義があったためなのか研修病院での午後診は一切なしでした。外国人研修生としては普通の鍼灸治療がは研修のメインとなるはずだったのですが、せっかくなので、研修が始まってすぐの時期にこの特殊な鍼刀治療の研修を願い出てみたところ、幸運にも研修の許可(6ケ月)をいただくことができました。

参考資料1【 下画像 】
午前診(上午)が多いことがわかる広安門病院 鍼灸外来の一覧表
(※鍼刀は行っていません)

鍼灸外来の看板

赤色の囲い=午前診(上午は午前/ 全天は午前午後/ 下午は午後/ 一は月曜日)

参考資料2【 リンク画像 】
午前診(上午)が多いことがわかる東直門病院 鍼灸外来の一覧表(←クリックで表示 )
(※こちらも鍼刀は行っていません)

因みに留学生が教官を自由に選ぶことはできません。それと治療室にはもう一人先生(週6午前,週3午後診)がおられましたので、担当教官が不在の曜日は、その先生の鍼灸治療を研修することとなり、その先生の鍼灸治療も同時に見ることができました(これもまた幸運でした)。

先ほども説明しましたが、この特殊な「鍼刀治療」は北京でもごく一部の総合病院でしか受けることができません。やはり総合病院なので安全体制を万全にすることができるからだと思います。実際、鍼刀治療は普通の治療室とは別にある、密閉型専用処置室で行っていました。

鍼刀治療の流れ
治療の流れについてですが、治療全体の流れとしては、まず「鍼刀治療」に入る前の段階ですべての症例において画像診断を行います。これにより鍼刀が可能かどうか、医師が適応の診断を行います。鍼刀が適応する場合は、治療ポイントの選定、治療回数など治療方針を設定します。そして後日、鍼刀を行う場合では、患者さんにそれらの結果を伝え、治療方針や諸々の情報提供を行い、次回の治療予約を入れていくことになります。

治療当日は鍼刀治療では、術者は必ず術衣、マスクを着用します(研修生の私も)。そして患者さんと挨拶を交わしていくつかの確認を行ってから患者さんは病衣を着てベッド上で臥位になります(横たわります)。

次に治療箇所を入念に消毒していき、鍼刀を刺す治療ポイントに印を入れていきます。その後、鍼刀を刺す治療ポイントに「局所麻酔」の注射を行っていきます。これで準備完了です。

術前準備

参考資料/針刀治療 頚原性眩暈
(四川出版)P.154

治療では、ポイントに麻酔が効いたことを確認すると先生が治療ポイントに鍼刀を刺入していきます。刺入の瞬間とポイント到達後の鍼刀操作では、「ブチッ、ブチッ」と組織が切れる音がします。施術の間、先生は患者さんにいくつかの確認を行います。そして予定通りに施術が終わると術後の処置を行い、患者さんにしばらくベッドで横になって休んでもらいます。

残念ながら、治療技術や治療回数、術後経過、治療成績、副作用については、こちらでこれ以上の発表はひかえさせていただきます。ただし、この鍼刀治療の研修で私は、「鍼刀でしかあり得ない『著効例』」を確認することができました。

 

鍼刀臨床研修への個人的感想

以上が私が2007年に中国北京で受けました「鍼刀研修」の内容となります。

鍼刀では必ず麻酔を使いますが、人によってはですが、施術ではそれなりにかなりの痛みが出てしまいます。私個人的には、その部分だけでも率直に言っても、よほどのことがない限り鍼刀治療を受けたいとは思いませんでした。

しかしながら、患者の立場での個人的な価値観をまったく別にするとして、私は、この半年間の鍼刀研修で「鍼刀治療の診断ノウハウ」、「治療ポイントの選定」、「術前術後の対応」など、幅広く学ぶことができました。その意味では「当院での鍼刀治療導入」だけでなく、当院での「普通の鍼治療」にもいろいろと応用、有効活用ができる知識やノウハウを多く吸収することができたと思います。またおそらく、鍼刀治療をここまでしっかり見てきた日本人は今でも私以外にはいないと思われ、それ自体がたいへん貴重な経験であり、幸運だったと感謝しています。

 

当院の鍼刀の適応基準、適応範囲について

当院の鍼刀の適応基準の説明に入る前に、「当ページを閲覧している読者の中には、他のインターネット上の鍼刀情報から影響を強く受けていること」を想定した説明を先に行うことにします。

なぜなら、当院では時々、ネット情報に影響を受けた患者さんから「経穴ですかー?筋肉ですか-?」とか、「鍼の効果は何ですか?経絡ですか?麻酔効果ですか?」などと、鍼の効能に対する質問や冷やかし電話が入っていたからです。

その原因は、日本のインターネット上に偏った鍼灸情報があるためかと思いますが、特に鍼刀に関する情報の中には、鍼刀の治療効果、適応範囲をかなり過大、または偏向に評価している情報が(*)が見られ、その偏った情報から強く影響を受けた読者(患者さん)では、(普通の)鍼の効果効能の範囲を過小に評価しているようでした

*E:①某鍼灸院ホームページ ②某ブログ記事=現在該当ブログは削除され、別の記事に入れ替わっていますがスクリーンショット保存有り)

例えば鍼刀は、「凝り固まった筋肉を局所的にほぐして治療法」、「癒着をはがす治療法」という理屈の治療法であり、非常に単純です。これ自体は間違いではありません。

しかし、日本のネット上にある鍼灸院ホームページの鍼刀情報では、この「鍼刀の理論」と、「普通の鍼の効能」とを同列に扱う主張がみられ、「(普通の)鍼治療でも鍼刀治療と同じで、筋肉の凝りをほぐす効果だけが道理にかなった効能で正当だ、だから、それ以外の効能、経穴や神経刺激は無用である...」との論調になっています。

その結果、それを読んだ読者は恐らく、「筋肉の凝りをほぐすためには筋肉だけに鍼を刺鍼するのが正しい鍼治療法であり、それ以外は誤魔化しのインチキではないか?」との偏見(*F)が出てしまいます。もし、そのような矮小化された鍼の効能、偏った価値観が日本中に広く定着してしまうと、本来発揮されるべき「鍼の効果」が部分的ににしても発揮できなくなり、結果として社会的損失になりかねません。

*F: 実際当院では時々患者さんから同種の質問が出ていましたし、冷やかし電話も多く、更には患者さんだけでなく視野が狭い鍼灸師や柔整師からでも上記偏狭情報への共感が見られた)

このような誤解発生は大きな問題です。

なぜなら「鍼灸の効能」は、「鍼刀の効能」よりも多様性に富み、治療範囲が非常に幅広いからです。

例えば、当院ではある時点まで「逆子治療」を行っていましたが、「逆子治療」は足先にある特定の経穴(至陰)に灸刺激を与えて子宮を弛緩させて逆子になった赤ちゃんを元の正常位に戻す治療法ですが、これは「体性自律神経反射」を利用するもので、「鍼で筋肉の凝りをほぐす治効メカニズム」とはまったく異なる生体反応です。もちろん当たり前ですが、鍼刀のように軟部組織に細かい切り目を入れて物理的に凝りを取るとか癒着を離開させる治療効能ともまったく異なる効能です。

鍼治療の「筋肉の凝りをほぐす効能」では、患部局所か近接部位に「軸索反射」を起こして治療効果を発揮させるものですが、これに対して「逆子治療」では、患部とは離れている「足先の経穴(至陰)」を刺激して内臓の機能を転調させる治療機序(体性自律神経反射)であり、「遠隔効果を発揮する治療法則」となります。

逆子治療の「至陰」による「子宮弛緩作用」以外にも「経穴による遠隔刺激から治療効果を発揮する効能領域」があります。特に有名なものは、膝関節の直下にある「足三里」の「胃腸蠕動運動促進」が有名です。逆子の至陰も胃腸症状の足三里も遠隔刺激からの効能が期待できる「体性-内臓 自律神経反射」です。このような神経反射は、理論上、鍼でも灸でもどちらでも惹起できますが、つまり、これらの効能メカニズムは、「筋肉の凝りを取るための治療の効能」とはまったく異なる系統の効能メカニズム(神経反射)であり、鍼灸効能の多様性を示すものです。

この他にも鍼や灸の経穴刺激では、免疫力をブースト的に高める効果や、全身的に副交感神経を優位にすることができます。

逆に、鍼刀もそうですが、普通の鍼治療でも、一回の治療で広範囲に多数の鍼を深く刺鍼する強刺激の鍼治療を行うと、人によってはあまりに刺激が強いために生体にとってもストレス過剰となり、全身的に交感神経が優位過多になったり、免疫を大きく下げてしまう可能性があります。麻酔なしの鍼刀ならなおさらハイリスクではないでしょうか。

とにかく日本人オレオレ鍼灸師の凝り固まった判断力にはかなり注意を要します

話が大きく逸れてしまいましたが、当項目の「鍼刀治療の適応範囲の説明」に戻ります。

冒頭で「鍼刀治療とは、凝り固まった筋肉をほぐす為のもの、癒着をはがす治療法」と説明しました。これは大枠の理解としては決して間違いではありません。しかし、もしあなたが「鍼刀治療」を受けたければそれだけの理解では不十分かと思います。

先ほども説明しましたように、ネット上で見られる鍼刀情報のなかには、元ネタの中国書籍の誇大内容をそのまま転載しただけであるか、効果の大きさや適応範囲の説明が完全に「誇張レベル」の情報発信になっているものが見られますし、それから「鍼刀」は、通常の鍼治療に比べかなり侵襲性が高い治療法となりますので、「鍼刀ならではのリスク」を理解する必要もあります。

そして何より問題なのが、適応範囲についての解釈です。私が中国で受けた鍼刀研修の臨床で確認できた鍼刀の適応症の範囲は「必ずしも書籍に記載されている適応範囲とは一致していない」という事実があります。もし、書籍の知識しか持たない鍼灸師が鍼刀治療を取り入れたとしたらどうでしょうか?。実効性とか現実性の範囲が分からない者が書籍の情報だけで臨床で使える知識やスキルを身に付けることができるのか?という問題です。

実際私は、ある「鍼灸セミナー」の飲み会の席に参加した際、明らかに経験の浅い鍼灸師が、「自分も最近、鍼刀を取り入れています」と、中国から鍼刀鍼を大量に仕入れたことを自慢げに話すのを直接の会話で耳にしたことがありましたし、今後業界での過当競争が激しさを増す中、「差別化ビジネス」を応用するために「鍼刀を安易に取り入れようとする鍼灸師」がたくさん出てきても何ら不思議ではないと思います。

もうひとつは、これも適応範囲の説明に通ずるところですが、「凝り固まった筋肉」にもいろいろで、「軽症~重症の段階がある」ということです。つまり、筋の凝りや硬化の段階によって鍼刀治療が「適応する」「適応しない」を判断しなければならず、まともな鍼刀治療を行う場合はそれ相応のスキルを身に付けなければなりません。そうでなければ、何も知らない患者さんが、本来なら「普通の鍼治療で治ったはずのレベルの筋の凝り」治療だったのに「侵襲性の高い鍼刀治療」を受けることになる可能性があり、もし無駄に「不必要な鍼刀治療」を受けてしまったとしたなら、それはデメリットでしかありません。

 

軟部組織損傷学に基づく鍼刀の適応範囲

当院の鍼灸治療では、これまでの開業期間中で全体のおおよそ5割程度の聴覚障害を除いて、頚椎症、頚椎ヘルニア、腰痛症、坐骨神経痛、椎間板ヘルニア、変形性脊椎症、膝関節症、肘痛、肩関節周囲炎など、多くの運動器系疾患に鍼治療を行ってきました。そして、多くの完治、改善実績を蓄積していきていましたが、そのなかで確認できたことは、やはり「中高年の方、10年単位で長期間に慢性化した頚椎症や腰痛症、坐骨神経痛、膝関節痛」では、大なり小なり「骨変形(骨増殖,骨棘)を伴ってる可能性がある」ということです。稀に30歳代の若い人でも体質か偏食などによるミネラル不足か、あるいは外傷やスポーツなどで酷使してきたために「石灰化など骨変形を伴う強い筋の凝り、筋硬化の症例」を確認しています。

そのことを通して理解できたことは、西洋医学的に病名病態原因がまったく同じであっても、患者さんごとの「骨変形と付随する患部、治療ポイントの筋の凝りの程度(軽度硬化~重度硬化)」が非常に幅が広く、様々であるということです。

当院での「筋硬化レベル」の評価

骨変形と付随する筋硬化、凝りに非常に大きな幅がみられますので、当院ではこれらの症例に対し軟部組織損傷学的による解釈を行い、「凝り固まった筋肉・筋硬化」を以下のようなイメージでレベル分類を行い、「当院の普通の鍼、または鍼刀治療が適応するレベルかどうか」の評価を行っています。

重症から順に、

1.石灰化を伴うかなり凝り固まった筋肉
2.石灰化はしていないがかなり凝り固まった筋肉
3.それほど慢性化していない凝り固まった筋肉
4.凝り固まった筋肉ではなく、ただ単に緊張しているだけの段階の筋肉
というふうに分類を行います。

この分類での「鍼刀治療が最も適応する筋肉の凝り」は、1.の「石灰化を伴うような硬化筋」だけです。

2.の「慢性化してかなり固くなった凝り」は、普通の鍼治療で改善の可能性がありますので普通の鍼治療を優先的に行います。鍼刀治療を行う必然性は低い方です。

ここでの説明はあくまでも「患者さん向けの筋肉の凝りレベルに特化した説明」であり、わりと大雑把な説明でありますし、この「筋の凝りレベル4段階分類」の評価だけで「鍼と鍼刀の適応範囲」を判断するわけではありません。

例えば、当院の治療では、上記基準とは別途に「持病の有無、程度の確認」、「東洋医学(中医学)的な体質分類」を行い治療可否を判断するケースもあります。また、筋肉起始部停止部の石灰化の有無、椎骨の骨変形の状態の把握は、先に病院での画像診断があってのことであり、石灰化(骨増殖、骨棘)が確認された場合では、局所的コンディションと全体的コンディションの両方を吟味する総合判断となります。骨の異常に限らず、筋肉の凝りレベルにしてもそもそも杓子定規な判断は不可能です。

あとは程度にもよりますが、1.の「石灰化を伴うような硬化筋」であっても当院普通の鍼治療でもを筋肉の凝りを改善でき、症状自体を改善する可能性があり、当院の鍼治療の症例でも症状の改善例があります。また、中国の研修でも画像診断で先に不適応(例:広範囲で激しい変形,骨棘ピンポイント系の原因,骨融合など重症例)を除外した後で普通の鍼治療が行われる例がありました。したがって、「石灰化があれば普通鍼はすべて無効」という立場ではありません。

(※ここの説明は「当院の鍼治療での有効症例や中国研修内容を根拠」にしていますが、当院以外のその他の鍼灸院の鍼治療の有効性を保証するものではありません。他の鍼灸院での鍼治療に関しては、あくまで「そこの診断力と鍼治療のレベルが高いければ、」という前提でご理解ください。
(※もうひとつは、鍼でも鍼刀でも治療前に適応と判断したケースであっても治療後に全部が完治、有効とは限らず、部分改善、結果的に無効という場合もあり得ます。

 

癒着性の症例について

鍼刀は癒着による症状に対しても有効です。もちろん、程度や部位にもよりますので一概に評価はできません。しかし、リスクなどあらゆるマイナス要因を除いた場合では、癒着性の症状に対しては鍼刀が適応し、劇的に症状を改善する可能性があります。とくに私が中国で見た症例では、弾発指(ばね指)の著効例が多かったです。ただし、弾発指は日本では外科手術の適応領域と完全に重なりますので、あえて日本で鍼刀をお勧めできる適応症ではないと考えます。

特殊鍼法の教科書

左:鍼刀の公式教材【 針刀刀法手法学 】/右:鍼刀関連専門書【軟部組織損傷臨床研究】

 

まとめ / 鍼刀治療の導入を検討される方への助言

鍼刀は中国でもかなり特殊な治療法との位置付けにありますが、当院の個人的評価としては、「鍼刀治療はある種の病態ではかなり有効ではあるものの、この治療を受ける場合は最終手段の選択肢の一つとして考慮、選択すべき治療法であり、安易に受けるべきではない」との考えに至っています。

その一番の理由は、鍼刀は普通の鍼に比べ格段にに侵襲性が高い治療法であるということ、それから中国では術前に必ず局所麻酔を使いますが、日本では鍼灸師が局所麻酔を扱うことができず、その分身体へかかる負担が増大してしまうからです。これだかけでもハイリスク要因なところ、先ほどもご説明しましたとおり、日本では、この事実を知るや知らずやで安易に鍼刀を行っているオレオレ型鍼灸師が存在します。

これでは鍼刀治療のリスクマネジメントどころのレベルではありません。

実際、他にも例えば、中国では、鍼刀療法を希望し予約で来院してきた患者さんであっても、医師の問診と判断によっては「鍼刀を不適応」として、治療自体を中止したり、あるいは一旦先に普通の鍼治療(他の鍼医師でも)を勧めて、一般鍼治療での治癒の可能性を求めることがあり、鍼刀の適応範囲を厳格に管理した。要するに「鍼刀ありき」という対応ではありませんでした。

つまり、もしあなたが鍼刀治療を受けるつもりで日本国内のどこかで鍼灸院を選んだとしても、そもそもそこの鍼灸師は、「鍼刀治療のことをきちんと理解しているのか?」、「リスクについてどの程度の知識があるのか?」という問題に留意しなければなりません。

もう一つは、そもそものそもそも論として、日本のどこかの鍼灸院で「鍼刀を受けるかどうか」の判断以前の問題として、「そこの鍼灸師の鍼刀以外の普通の鍼治療のレベルはどうなのか?」という判断も必要です。

「鍼刀を取り入れている鍼灸院」という条件だけで鍼灸院を選んでしまうと、そこの鍼師から普通の鍼治療を受け終えたところ、「そこの鍼治療ではあなたの症状が治らなかった」として、「普通の鍼ではこれが限界です…、やっぱり鍼刀しかありませんわー!」、などと言われ、鍼刀治療に勧誘されるかも知れません。

そして、もしそうになったら、その場合あなたは、「そこの鍼刀治療を受けるかどうか」の決断をする前に、「そもそも、この鍼灸師の鍼治療のレベルは高かったのか?」、という疑問を頭の中で浮かべ、そこの鍼灸師の資質を根本的に吟味する必要があります。

つまり、あなたが受けた鍼師の治療レベルが低かった(的外れだった)としたら、そこでその後に受けることになるかも知れない鍼刀治療は、「本来、不必要な治療になるかもしない」というだけでなく、「初めに受けた普通の鍼治療も無駄だった」ということになり、選択肢として、「その先そこでの鍼刀治療を受けるべきかどうかの判断にも意味がない」ということになり、「鍼灸院選びがそもそも間違っていた」ことになるのです。

そうならないためには、できるだけ「レベルが高い鍼治療を行っている鍼灸師の鍼治療を受けること」が大事です。

なので、「鍼刀を取り入れている鍼灸院」を優先的に探す必要はまったくありません。これは症状と関連する骨変形があったとしても言えることです。あなたの症状に関係する骨変形が見つかったとしても「鍼刀治療は2の次3の次、それ以下の優先順位」の選択肢でよいです。それよりも「先に地元で最も優秀な鍼師の鍼灸院を見つけること」が肝要で、または「外科手術が高度に適応する」ならそちらを優先して検討すべきです。

以上、「中国の特殊鍼法 鍼刀治療の紹介」と「当院の鍼刀の適応基準、適応範囲」についての説明となります。

(※この説明は「当院鍼治療での判断」の一般論であり、患者さん個々、個別症例の適応、不適応を判断する説明ではありません。また、他院で受診した際の判断が当ページと同じになるとは限らず、判断が同じになることを保証するものでもありません。)


下画像:先ほど画像の鍼刀よりも細いタイプの鍼刀です。(シャープペンの下の2本 /一番上は普通鍼)

小鍼刀・鍼刀の画像

(画像クリックで拡大表示)

 


誠に申し訳ございません。現在わきさか鍼灸院は移転しております。移転に伴い、現在極一部の患者様とご紹介の新規様への治療を除いて他の方への治療を受付けておりません。そのため基本的にメールでご連絡をいただいても返信をしておりません。また、サイト内のページには「旧ページ」が混在しており、掲載情報が不正確なところがあり、ご不便をお掛けしております。重ねてお詫び申し上げます。

 


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